10月14日に閉幕したバンクーバー国際映画祭で、日本映画「昼も夜も」と「約束」が同時上映され、来加した塩田明彦監督が、作品に込めた思いや同映画祭について語った。
3泊5日という短い滞在ながら、他の日本人監督3人の作品を鑑賞したという塩田監督。「どれも面白かった。約20年前に自分が撮影・照明を担当した作品がここで上映された当時からプログラマーとして活躍していたトニー・レインズさんが、相変わらずバリエーション豊かな選択をしている『懐の深い』映画祭だなと感心した」とし、「バンクーバーはアジア映画へ向ける視線がすごく幅広く、アジアの映画を重視して行き届いた目で見てくれているので、北野武監督のようにバンクーバーをきっかけにして世界的に知られるようになることも多い。昔から、かなり低予算のインディペンデント作品にも目を配ってあって、そのきめ細やかさは他の映画祭にはない」と、同祭を評価する。
世界各地の映画祭に出品・参加経験のある塩田監督は、「各映画祭の方針がトップによって違うので、どういう色の映画祭を作っていくかというのがそれぞれ異なる。例えば、スイスのロカルノ国際映画祭は、新人を発掘することを重視している点でバンクーバーと似ている」と説明。「カンヌやベネチア、ベルリンなどの三大映画祭に比べると、どうしても華やかさには欠けるかもしれないが、ショービジネスとしてよりもシネマ・アートとしての映画の側面に光を当て、ものすごく質の高い、映画好きが高く評価する作品を取り上げて、映画祭としての独自の地位を築けるよう努力しているのがバンクーバー映画祭で、作り手側にとってありがたい存在。お客さんたちが映画を見る目も相当肥えているはず」と分析する。
今回上映された2本は、同監督がウェブサイト用に制作した。15分の短編「約束」は、一緒に暮らせなくなってしまった父と娘の再会と日常を描いた切なくも心温まるストーリーで、ジョニー・ウォーカーの映像体験プロジェクト「Keep Walking Theatre」で2011年に公開されたもの。69分の中編「昼も夜も」は、「ネスレシアターon YouTube」内で2014年に公開された作品で、2年前に父親を亡くして、仕方なく中古自動車販売業を継いだ主人公・良介と、男に置き去りにされた後、強引の中古車の中に居座ってしまう女・しおりとのやり取りを描く。
「昼も夜も」の英題「Lifeline(ライフライン)」については、「『Day and Night』という直訳のままだと、同名の映画や歌も他に結構あり、あまりに一般的過ぎると思い、自分で考えた」と明かし、「居場所を失って眠る場所もなく、自暴自棄になって生きている女性にとっての唯一の『生命線』としての一人の男の存在、という意味での『ライフライン』。その男にとっては、育ててくれた自分の父親が赤ん坊のころの自分にとっての最後に残された『生命線』だったという意味での『ライフライン』。3.11の地震や大津波、原発事故以降、日本でものすごく使われるようになり、すごく身近に出てきた言葉としての『ライフライン』の3つの意味を込めた」と説明する。
作品の設定について、塩田監督は「どちらも東日本大震災の後に作った作品で、『約束』は半年後、『昼も夜も』は3年後。どっちも震災後の日本の雰囲気を色濃く残していて、喪失感というか、どうにもならない感じや、何かが起こってしまった後の余韻とか波紋が漂っている」と話し、「やっぱり人生いろんな面があって、絶望だけでもないし希望だけでもないし、失ったものは戻らないけれど、でも前を向いて歩いていくことはできる、という空気感が自分の中でフィットした」と描きたかったテーマを語る。
数々のヒット作を生み出し続ける傍ら、「映画術・その演出はなぜ心をつかむのか」などの著書もある塩田監督。「この世界にいる時間がだんだん長くなってくると、若い人たちへのメッセージを求められることが多いが、とても難しくて、自分のことで手いっぱい。偉そうなことは何も言えない」としながらも、映画関連の専門学校なども多いバンクーバーで、映画の世界を目指している若者たちに向けて、「強いて言うならば、やっぱり今の作品はもちろん、過去の名作はできるだけ見といたほうがいい。映画を見ることが映画を作るためには一番大事で、見た映画について語り合える仲間をいかに作るかが重要。『見る、語る、撮る』が全部同じだけ価値のあること」とアドバイスを送る。