リッチモンドに昨年12月、同市初の地ビール醸造所としてオープンした「Fuggles & Warlock Craftworks」(11200 Horseshoe Way, Richmond、TEL 604-285-7745)が併設テイスティングルームをオープンして1カ月がたった。「珍しい種類の新鮮な地ビールがいつでも飲める」と、地元客でにぎわっている。
テイスティングルームには、懐かしのゲームが楽しめるコーナーも
社名は、醸造責任者Daniel Colyerさんのニックネームでホップの種類の名前でもある「Fuggles」と、ゲーム好きな醸造スタッフのTony Iaciさんが好んで選ぶゲームキャラで「魔術師」を意味する「Warlock」を合わせたもの。趣味で自家製ビールを醸造し、クラフトビールコンテストなどに出品しているうちに、アメリカにあるいくつかの醸造所から声が掛かり、ポートランドやラスベガスなどを転々としながらビールを造り続けていたDanielさん。「これでやっと1カ所に落ち着ける」と笑顔を見せる。
醸造所全体は1万3000平方フィートで、そのうち1500平方フィートを占めるテイスティングルーム内には、パティオを含め60席を設ける。カウンターと椅子の高さのバランスやテーブルの手触り、椅子の座り心地など細部への気配り、カウンター下の荷物掛け用のフックや充電用コンセントの設置、「パックマン」や「ドンキーコング」など懐かしいテレビゲームが楽しめるコーナーなど、「自分の家にいるのと同じようにゆっくりとビール片手にくつろげる」(Danielさん)よう工夫した。醸造エリアは壁や窓で遮らずオープンにし、バーエリアやラウンジエリアでくつろぐ来店客と醸造作業中のスタッフが自由に会話できるほか、醸造エリアの無料ツアーも実施する(要予約、日本語・英語に対応)。
テイスティングルームでは、タップに8種のビールを用意し、スリーブズ(6カナダドル)、テイスター(2カナダドル)、ラック(テイスター4種=7カナダドル)、グラウラー(1リットル=7カナダドル、2リットル=12カナダドル)を提供する。スティーブストンの本場ドイツ式ソーセージ店「Original Sausage Haus」のサンドイッチ(9カナダドル)や「Bierbeisser(ペパロニ)」(3.5カナダドル)、プレッツェル(5カナダドル)、ピクルス(2カナダドル)のほか、居酒屋「Guu in Richmond」の弁当「Sushi by Shun」(8.5カナダドル)、ポテトチップスやプリッツ(各3カナダドル)など、ビールが進むフードメニューも充実。「ビーガンメニューの導入も検討中」(Danielさん)という。
定番商品として、「Pixel Pils」「Bean Me Up Espresso Milk Stout」「Personas West Coast Common」「The Last Strawberry Wit」「Destiny IPA」の5種を通年で醸造し、季節限定や他の醸造所との期間限定コラボ商品なども取りそろえる。Danielさんは「地ビールブームが続くバンクーバー近郊で生き残っていくためには、皆と違うことをしないと目立たないし、いったん売れてもすぐ消えてしまう」とし、「Keeping Beer Weird(ビールにひとひねり)」をコンセプトに、ホップの配合の仕方やフレーバーに常に工夫を凝らす。
「常連客がいつ来ても飽きることなく新しい味を楽しむことができ、ビール好きな人はもちろん、ビールが苦手な人たちも『これなら自分も飲める』という味を見つけてもらえるように、定期的に新しい商品を出している」とも。最近では、「日本酒のロゴをイメージしたサワービールシリーズ『光(HIKARI)』『闇(YAMI)』『極(KIWAMI)』が、さっぱりとした味でこれからのシーズンに合うと好評」という。
同社の専属グラフィックデザイナーは、アーティスト名「ゆりえ ほよよん」として活動しているDanielさんの奥さん、ゆりえさん。ゆりえさんが手掛ける、日本のゲーム・アニメ風の絵柄や、漢字一文字の商品名を記したロゴなど、和の雰囲気を取り入れた「オタク風」ラベルは、店頭で多くの人の目に留まり、口コミやSNSなどで話題となっている。中でも一番人気は「The Last Strawberry Wit」で、アニメの美少女風ラベルとイチゴの甘酸っぱさが女性にも好まれており、2015年の「スクワミッシュ・ビール祭り」で最優秀賞、2016年「Canadian Brewing Awards」のフルーツビール部門で銅賞に輝いた。
現在は週2回、1日4000リットルのビールを醸造しているが、今後2カ月以内に今のサイズの2倍あるタンクを導入し、急増する需要に対応していく。「このままだと不眠不休で働かないといけなくなりそうなので、スタッフも増員しなければ」とうれしい悲鳴を上げるDanielさん。醸造で使い終わったモルツは農場へ寄付し、飼料として活用してもらうようにして環境保護も考慮する。コミュニティーへの貢献を意識し、「近々、同じ通りにもう1社、別の醸造所ができる予定。ライバルになるというよりも、自分たちの存在をきっかけとして、このエリアにいろいろなビジネスが参入し、どんどん発展して盛り上がっていければ」と抱負を語る。
すでにアルバータ州、マニトバ州、サスカチュワン州に続き、カナダ東部へと販路を拡大している同社商品。国外では、韓国への輸出が始まり、フィンランド、イギリスなどへの進出予定も。「ぜひ日本にも輸出できるようにして『故郷に錦を飾りたい』」と夫婦で口をそろえる。
営業時間は11時~21時(日曜は19時まで)。