イアン・ワット(Ian Watt)氏 村上丈二氏
ダウンタウンを含むバンクーバーウエストサイドの現状
ダウンタウンの不動産業を営むSutton Groupのイアン・ワット(Ian Watt)氏は、「昨年9月をピークに地価が15~20%減になったが、今年に入り、回復の兆しは確かにある。特に30万ドル以下のコンドミニアム(1studio、1bedroom)の売れ行きは回復している」と話す。
バンクーバーで、20年間不動産業を営む同Sutton Groupの村上丈二氏は「注意をしなければいけないのは、売買件数と金額を分けて考えること。今年に入り不動産の価格が下がったこと、また金利も下がって求め安くなったこともあり売買件数は増加しているが、金額はまだ下がっている。これからもじりじりと下がる可能性はある」と話す。
下の表はReal Estate Board of Greater Vancouver(バンクーバー不動産協会)が毎月発行するListing & Sales Activity Summary(不動産売買件数表)。
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Detached(一軒家) |
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Attached(タウンハウス) |
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Apartments(コンド) |
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今年1月のバンクーバーウエストサイドの売買物件数を見るとDetached(一軒家) 46件、Attached(タウンハウス)14件、Apartment(コンドミニアム)117件となっており、昨年1月のほぼ半数となっている。12月はクリスマスシーズンのため、通常不動産売買は少ない時期だが、今年1月の売買件数は昨年12月よりもさらに悪い。今年1月、いかに不動産売買が冷え込んでいたかを示しているが、2月、3月の売買件数は増加しており、復調の兆しを見ることができる。
不動産協会発行のMLSLINK HOUSING PRICE INDEXによると、バンクーバーウエストサイドの1月の平均売買金額はDetachedが$1,134,773。5年前の同月と比較すると54.5%増、3年前の13.7%増となるが、昨年からは19.3%減である。昨年をピークに金額は下がっている状況である。※4月は若干だが上がっている。
Detachedは一戸建て4Beds roomと考え、Apartmentは2Beds room
イアン氏も村上氏も、「売買物件数は増加傾向にあるが、物件の金額は高くなく、比較的、手の届くものに限られている。高額物件はまだ動いていないが、徐々に動きつつあるだろう」と予想する。
「バンクーバーダウンタウンの地図を見ると、土地スペースに限りがある。住む人が増えれば、自然に地価は上がる。特に5年前の2004年から昨年までは年15%の勢いで上昇しており、このような都市は北米でも数少ない。昨年バブルがはじけ、地価が下落したが、もう落ち着く所まで来た。これ以上、値下がりすることはないだろう。これから昨年の地価まで上がるかどうかは何ともいえないが、正常値として、年3%程の緩やかなスピードで地価はまた上昇していくだろう」とイアン氏は話す。
実際に購入される層の昔と今
実際の購入層についてイアン氏は、「10年前は地価もそれほど高くなく、若年層の購入が目立ったが、今は2つのグループに大別できる。1つは30歳前後の独身男女。このグループは、便利、安全、徒歩通勤、車なしなどの理由からダウンタウンを求める。多くのレストランがあることも理由の一つ。もう1つは60歳前後のリタイア層。この層は『Empty nester』とも呼ばれ、子供も独立し、夫婦2人であれば家も大きくなく、セキュリティも万全で便利なダウンタウンを好む」と話す。
村上氏は購入層の人種の変化について、「90年代前半は香港の家族がとても多かった。97年の香港返還が主な理由。2003年からは韓国政府に不満を持つ韓国人が、バンクーバーへ移住を決断した例も多い。その後は中国。ただ中国景気も厳しくなり、世界不況以降は、海外移住者の購入も減少。現在は金利が安くなったこともあり、現地に住む若い人がローンを借りて、賃貸から移り住むファーストタイムバイヤー(初めて購入する人)層が増えている」と話す。
最も地価が高い場所は?
日本の地価で最も高いのは3年連続で銀座の山野楽器銀座本店(東京都中央区銀座4丁目)。バンクーバーについては、日本の路線価格・公示価格のような指標はないので、あくまでも個人的観測が前提となる。
ダウンタウンを専門にコンドミニアムを販売するイアン氏は、右の地図を見ながら「左の青い所が『West End』と呼ばれる昔からコンドミニアムが多く立っていた場所で、8割が賃貸状況のため、現在では売りに出されることがほぼない地域。右側の緑色の部分が『Downtown&Yaletown』で新しい物件がいつも供給されている新興地域。地価が一番高いのは何と言っても、左上の赤いエリア『Coal Harbour』。特にCordova St,沿いは最も高いエリア。右下茶色の『False Creek North』エリアも、ここ近年人気があり、コンドの物件価格も急上昇した」とのこと。オリンピックの選手村も建設中で、近年開発が進み整備されている。
写真はCoal Harbour
バンクーバーウエストサイドの一戸建てについて村上氏は「昔から物件が高かったのは日本領事館もある1st Shaughnessyと呼ばれるエリア(下記地図を参照)。特にShaughnessy Park周辺(下記地図1)が最も高いエリアだろう」と話す。(右写真はshaughnessy周辺)
具体的に言うと、Oak St, とArbutus St、W 16 Av,とKing Edward Avの四角形のエリアを指しているが、その南のVan Dusenを含むKing Edward とW 41 Avの四角形も同じように高いようだ。「これらのエリアは昔からの一軒家で、敷地面積も広い。1スクエアフィートで考えると、Point Grey エリア(2)の方が比較的小さい家が多いため高額かもしれない」(村上氏)。
参考までに商業地を聞いたが、商業物件を扱っていないので確かなことは言えないが、イアン氏は、「Bentallエリア(Howe×Pender)あたりではないか」とのこと。Dunsmuir×Burrard 周辺のオフィス街もかなり高いようだ。
オリンピックと不動産の関係は?
来年のオリンピックがバンクーバーの不動産に与える影響について、両氏とも「影響はほぼないだろう」と話す。「通常オリンピックがあって、景気に影響するのは、オリンピック開催約5年前から直前まで。現在のバンクーバーの景気は昨年から下降していて、これからまた急上昇するとは考えにくいので、バンクーバーの不動産マーケットに直接影響することはない。もちろんオリンピック時は観光で訪れる人が住む家を探すことで混雑すると思うが、それは一時的で、ほぼ影響はないだろう」(村上氏)。
但しウイスラーはまだ影響があるかもしれない。「15~20 millionドルといった高級別荘が1ヶ月に1本は売れている状況。Seal and Heidiといった芸能人をはじめ、有名人が1年のうち、1ヶ月利用するためだけに別荘を購入する例も多く、今後もまだ売買が増える可能性は高い。」(イアン氏)。オリンピック時は芸能人を含むセレブがこぞってウイスラー入りする噂もあるようだ。
賃貸状況
「賃貸は依然強いマーケット。5年前に比べて、20%程レント料金は上がったが、今は安定していて増減していない。今後も現在の水準の賃料で推移するだろう」(イアン氏)。相場はBatchelor=1,000~1,200ドル/月、1Bed=1,300~1,500ドル/月、2Beds=約2,000ドル/月。ダウンタウンの賃貸マーケットはまだまだ強いようだ。
ただ村上氏は「金利が安くなったので、賃貸ではなく、購入する人も増えている。確かに1,200~1,300ドル(1 Bed)の借り手はいるが、1,400~1,500ドルは動いていない。2Bedsでも2,000~2,300ドルまで借り手はいるが、それを超えると動きがほぼない。昨年の夏は、1,400~1,500ドル(1 Bed)、2,700~3,000ドル(2Beds)でも動いていた。不景気の影響は賃貸マーケットにもまだ少なからずある。空室率は悪くないかもしれないが、借り手が出た後、次の借り手が決まるまでの間が空くケースも出始めている。感覚的にはあまりよくない感じもする」と懸念を残す。
買い時は
「不動産ローン(モーゲージ)が過去最も低く、地価も下げ止まった状況を考えると、現金があれば、今はかなりの買い時」とイアン氏は話す。最初の購入でCMHC(Canada Mortgage and Housing Corporation)からの保証を獲得すれば、頭金は10%でも購入できる。但しその分ローンの金額が増えるのでリスクは増える。
村上氏は「賃貸から移り住むのは物件を安く交渉できるかどうか」が鍵だと話し、「1、2年待ってもいいが、その間賃貸料は発生する。今、金利は過去最低の状況で毎月の経費として考えた場合、賃貸料とローンの返金のどちらが低いかが焦点。既に物件価格は15%下がっているが、もう10%下がるよう交渉してみてそれが成立するようであれば、購入のチャンス」、「買い時は各個人の財務状況にもよるが、収入と多少の現金とチャンスがあり、銀行がお金を貸してくれるのであれば、不動産売買に参加してみて損はない。特にバンクーバーの不動産は売るタイミングさえ間違わなければ絶対に損はしない」と強調する。
村上氏は右のグラフを見て、「10年~15年の周期で金額は動いている。バンクーバーは世界一住みやすい都市ということもあり潜在的需要が高く、海外からの移民も増え続け、不動産は必要不可欠な商品である。今後も過去の高値を更新するのには8年ぐらいかかる。2~3年で20~30%下がった後、また自然に伸びていき、2015~16年ぐらいには昨年と同じぐらいになり、それ以降また2倍ぐらいになるだろう」と話す。今が既にピークから15%ほど下がっていて、これからまだじりじり下降する可能性は高いようだ。
ただ最後に「いくらブームがあっても闇雲に借り入れをして、不動産を買うことは止めた方がいい。途中で低迷期間は必ずある。そのような低迷期間でも維持できる体力を持って購入すること。最大枠で借り入れすると金利が増えて厳しくなり、手放さなければならなくなる人もいる。それはもったいないこと」と村上氏は釘を刺す。.“無理のない範囲”については、「個人の資産や給料等によって異なるので、一概には言えないが、銀行が許す範囲。ローン75%、頭金25%ぐらい。銀行の審査は毎月の収入の1/3までが返済金額と見ている。先述のCMHC使用もできれば避けた方がいい」(村上氏)
もしローンの途中で失業したら・・・。人生最大の買い物である不動産。まずは情報を収集し、好物件があるかどうか物色することから始めてみるのがいいだろう。
村上丈二氏:カナダ最大の不動産会社Sutton Groupに所属し、ポイントグレイ・プランニング社を運営。バンクーバーで20年間不動産業を営み、日本人の顧客が多い。
イアン・ワット(Ian Watt)氏: カナダ最大の不動産会社Sutton Groupの不動産ディーラー。バンクーバーで7年間不動産業に携わり、5年程前から、オンラインに営業方法をシフトしたため、現在はIT系技術者やビジネスマンの顧客が多い。