バンクーバー国際映画祭で、日本生まれのアメリカ人、リンダ・ホーグランドさんが監督した「The Wound and the Gift」が上映された。
宣教師の娘として京都で生まれ、17歳まで日本で過ごしたホーグランド監督。現在はニューヨークを拠点として活動し、1997年以降、宮崎駿、黒澤明、深作欣二、是枝弘和監督らの作品など、200本以上の邦画の英語字幕を手がけつつ、「ANPO」「Things Left Behind (遺されたものたち)」などのドキュメンタリー作品も制作している。
今回の作品は、日本の昔話「鶴の恩返し」をベースとして、動物愛護問題を取り上げたドキュメンタリーで、さまざまな動物たちのレスキュー活動を通して、人間と動物たちの関係が変化していく様子を描き出す。アニメーションと実写を織り交ぜながら展開していく独特の手法が観客の興味を引き、当日来場した監督との間で活発なディスカッションが繰り広げられた。
ストーリーの核となる「鶴の恩返し」を朗読するのは、イギリスのベテラン女優、バネッサ・レッドグレーブさん。ホーグランド監督は「彼女の威厳ある低めのトーンとイギリス英語のアクセントが、この作品にぴったりだった。彼女のおかげで、単なる子ども向けの『昔話』が偉大な『伝説』のように響いてきた」と感謝する。制作過程では、原稿を見たレッドグレーブさんが「この(アメリカ)英語は全くなってない」と一喝し、ほぼ全部書き換えてしまった、というエピソードも紹介し、会場に笑いが起こる場面も。坂本龍一さんのピアノ演奏が作品のエンディングで流れるなど、監督の取り組みに共感した著名人の参加も注目を集めた。
ホーグランドさんは「昔話の部分を単にアニメーションの挿入という形で使うだけでは全体の流れがうまくいかず、どうしたらいいかと悩んだ」とし、「ちょうどその頃に高畑勲監督が『かぐや姫の物語』について、『今まで語られていない隠されたものを作品に取り込まないといけない』と話しているのを聞いて、自分の作品のキーワードは『trust』だとひらめいた。そこから、全体がつながっていった」と振り返る。
「アニメーションの部分の『鯉』の登場の仕方にも注目してみて」というホーグランドさん。「いつもニコニコしているあの魚は、鶴のそばにいられてハッピーで仕方がない『Happy Fish』。小さな子どもが見ても、楽しみながらストーリー展開を理解できるようにした。年代を問わず、多くの人たちに見てもらい、作品のテーマについて考えてもらいたい」と呼び掛ける。