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「在日が嫌い」な主人公描く「ふざけるんじゃねえよ」 バンクーバー国際映画祭で

「バンクーバー国際映画祭」で上映された「ふざけるんじゃねえよ」の清水俊平監督

「バンクーバー国際映画祭」で上映された「ふざけるんじゃねえよ」の清水俊平監督

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 9月24日に開幕したバンクーバー国際映画祭のアジア映画部門「Dragons & Tigers」招待作品の一つとして、第26回東京学生映画祭でグランプリを受賞した「ふざけるんじゃねえよ」が上映され、出演者らとともに清水俊平監督が来場した。

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 「海外に出ようとするとき、まず北米ならバンクーバー、ヨーロッパならロッテルダムというのが日本の新人監督の間での認識」と、バンクーバー国際映画祭の位置付けについて話す清水監督。同部門プログラマーのトニー・レインズさんから直接連絡を受けた時は「とてもうれしかった。今までにバンクーバーを第一歩として大きくなっていった先輩方も多いので、そんな場所に来ることができて光栄に思う」と笑顔を見せる。

 同作品の主人公は、「在日が嫌い」という在日朝鮮人3世の元プロボクサー、金(キム)。利き腕が使えなくなったため生活保護で暮らしているが、競艇と酒、女遊びに明け暮れ、借金だらけの日々を送る中で、家庭内暴力に苦しみ、主婦売春をする日本人女性、櫻に出会い、彼女の愛と優しさに触れながらも社会や自分自身に対するどうしようもない反抗心に振り回されてしまう。

 清水監督が多摩美術大学在学中に制作した同作品。監督は、「ふざけるんじゃねえよ」というタイトルを「仕事もせず情けない生活を送っている自分、何もできないでいる自分へのいら立ち、在日に対する社会の壁、在日が嫌いと言いながらも在日のコミュニティーに頼ってしまう自分、親への反感など、いろいろなものに対しての思いを吐き出した表現」とする。

 海外に出品するに当たり、英語のタイトルをどうするか考えたとき、「とにかく簡単で分かりやすいものにしようと思い、原題を英語のスラング的表現にそのまま訳すのではなく、在日の主人公の名前『KIM』を使うことにして、日本映画だけれど在日を取り扱っているというのがすぐ分かるようにしたかった」という。「『原題の勢いのようなものがなくなって残念』という評価もあったので、タイトルというのは難しいと思った」とも。

 フランスで育った時期が長いという清水監督自身、「日本に戻ってきた時、周りに何となくなじめない違和感があり、異邦人のような気分を味わった経験もあるので、在日の主人公の日本にいて感じる疎外感には重なる部分もあった」とし、「ストーリーは実話ではないが、実際に10年来の友人である金さんを通して在日のコミュニティーを見てきて、既存の在日をテーマにした作品とは、現在の状況が少しかけ離れているような気がしたので、『別のリアル』を描かなければいけないと思い、金さん本人の浮世離れした部分と合わせて物語を作り上げた」と製作に至る過程を説明。

 主役の金さんは撮影当初、「なんで自分が役者なんかやらないといけないんだ、勘弁してくれ」と全くやる気がなかったが、「逆にそのやる気のなさが役のイメージとぴったり合って、『愛すべき屑(くず)』としての主人公が完成した」と振り返る。

 すでに次の作品として、ボクシングジムを舞台に東京で失われていく風景をテーマにした短編、同性愛のカップルを描いた長編と、精力的に取り組む清水監督。「映画は人と人を強く結び付けてくれるもの。自分の作品を見てくれた人たちが、タイトルや監督の名前は思い出せなくても、『あのシーンのあの音楽、あの主人公の一言が良かった』という形で記憶に残っていくものを作っていけたら」と今後の抱負を語る。

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