秋恒例の映画イベント「バンクーバー国際映画祭」で、松林要樹監督の最新作「Reflection」がワールドプレミアとして上映された。
松林監督がミャンマーやインド、ウルグアイ、香港など世界中17都市を旅しながら、1年かけて撮りためた映像を集めた、せりふもナレーションもない47分のドキュメンタリー作品。全体を通して聞こえるのは人混みでの騒音や車のクラクション、工事現場の機械の音のみで、全て鏡やガラス、水面などに映った反射画像で構成するという独特の切り口で、現代社会の矛盾を表現しようという試みに挑戦している。中には、「祭の馬」が昨年の同フェスに招待されてバンクーバーに滞在している間に撮影した映像も。
ダウンタウンにある映画館「The Cinemateque」(1131 Howe Street, Vancouver)で上映され、当日は松林監督も会場に姿を見せ、アジア作品部門プログラマーのトニー・レインズさんや観客からの質問に応じた。上映後のQ&Aセッションでは、監督は何とか自分の言葉で答えよう、思いを伝えようと、大きなジェスチャーを交えながら自分なりの英語を使って説明。どうしてもうまく通じないときに通訳の助けを借りるというスタイルで進行した。
「まさに出来たてほやほやの作品。最初にトニーさんが興味を持ってくれて本当によかった。カナダの人の感想や本質を突いた質問を聞くことができて、『よし、伝わった』と実感できた」と胸をなで下ろす松林監督。「はっきりとしたメッセージを打ち出した作品というよりも『抽象画的なこと』をやってみたかった」と制作に取り組んだきっかけを説明する。
「都市部の人や風景はガラスに映り、田舎では水たまりなどの水面に映る、と対照的な部分が多いが、世界中どこに行っても同じように常にスマホをいじり続けている人がいて、『世界が狭くなった、小さくなった』と感じざるを得ない。あらゆる種類のごみも世界中にあふれている」と話し、「ここまで便利になったのは本当に良い事なのだろうか」と資本主義に対する疑問を投げ掛ける。
同作品は大きく7つのセクションに分かれ、場面が変わる時にカラーの数字が1から7まで順に映し出される。虹の七色を順に使うことで、プリズムに反射した太陽光をイメージさせると同時に、これからの時代に対して「虹の向こうに希望があるように」という願いも込めた。「今回バンクーバーで見てくれた人たちが、それぞれの視点や感性で気付いたり、何か発見したりしたことを自分の言葉にして発信してもらえたらありがたい」と期待する。「今後も他の都市で同様の映像を撮り続けて、シリーズ化しても面白い」とも。
「今、自分のこの年齢で、この時代にしか作れないフィクションもいつか作ってみたい」と今後の抱負を語るが、まずは11月にブラジルに向かい、「日系移民のおばあちゃんのドキュメンタリーを撮る予定」だという。「毎回のことだが、映画制作にはとにかく費用がかかる。どんな形でもいいので支援してくださる方がいらしたらうれしい」と協力を呼び掛ける。