バーナビーにある日系プレース(6688 Southoaks Crescent, Burnaby)で11月10日、林家三平さんの落語会が開かれ、250席の会場を埋め尽くした来場客の拍手と笑い声があふれるにぎやかな夜となった。同イベントの主催は日系プレース基金で、日系文化センター・博物館および日系ホームの運営のためのファンドレージングを目的として企画された。
公演の最後にステージ上に一家が勢ぞろい (左から、林家三平さん、海老名香葉子さん、泰葉さん、国分佐智子さん)
バンクーバー・メトロポリタン・オーケストラの音楽監督兼首席指揮者ケン・シェさんが、4年前に九州各地で子どもたちのためのコンサートツアーを行った時に三平さんが司会を務めて以来、家族ぐるみで親交を深め、「海老名家に遊びに来るたびに、カナダの素晴らしさをいろいろ聞いていたので、いつか家族で訪ねてみたいと思っていた」(三平さん)という林家一家の夢が実現した今回のイベント。落語だけでなく、母親の香葉子さんの講演や、姉の泰葉さんのコンサートも合わせた盛りだくさんの内容となった。
エッセイストの香葉子さんは、東京大空襲で戦災孤児となった自身の体験を話しながら、「仲良く支え合う家族がいることのありがたさ」「いつも笑顔でいることの大切さ」を訴え、同様に戦後のつらい時期を乗り越えてきた日系移民の歴史に尊敬と称賛の意を表した。シンガー・ソングライターの泰葉さんは、デビュー曲の「フライデイ・チャイナタウン」をはじめ、「下町スウィング」「ピアノダディー」のほか、三平さんの映画初出演作品で現在、日本で公開中の映画「サクラ花-桜花最期の特攻-」の主題歌「桜舞う日は」や「よろこびのうた」の全5曲を披露。途中、落語のネタを説明しようとして、先にオチの部分から話してしまって失敗するという天然ぶりを発揮する場面も。
最後に高座に上がった三平さんは、林家菊丸さん、立川談志さん、笑福亭鶴瓶さんなど、多くの先輩たちとの面白エピソードを織り交ぜて、来場客をどんどん話に引き込んでいきながら、9歳のときに亡くなった父親、初代・林家三平さんの話題に。「幼いころに、唯一父から直接教わった演目をバンクーバーの皆さんにぜひ聞いていただきたい」と、古典落語「みそ豆」を演じて、林家一家のほのぼのとした温かい空気と家族の思いやりにあふれた公演は幕を閉じた。
「何人かのはなし家さんが集まっての落語会はよくあることだが、分野の違う、しかも家族そろってのプログラム構成というのは、今までで初めて。まるで奇跡のような公演」と開催を喜ぶ三平さん。「18歳で初めてスペインに行った時、他の国の人たちが自国の伝統文化についてちゃんと説明できるのに、自分が日本のいろいろな文化についてきちんと知らず、何も話せなかったことがショックで、日本に戻ってから一番自分の身近にあった落語からまず勉強しようと思った」と落語を始めたきっかけを振り返り、「落語は一人で全部やらなければならず、何が起こっても全責任を自分が負うことになる。その分、成功したときの達成感は半端なく大きなもので、自分に感謝できるところがいい」と魅力を説明する。
バンクーバーの印象については、「とにかく自然が美しい。『水戸黄門』の撮影で京都にいるときに見る紅葉や夕焼けのはかない感じに比べて、ダイナミックというか人間を包み込むような偉大な自然の力のようなものに圧倒された」と話し、「また必ず戻ってきたい。英語落語にも挑戦しているので、次回は全編英語で公演する機会をつくれたら」と意欲を見せた。