バンクーバー国際映画祭で上映中の邦画「いさなとり」の藤川史人監督、俳優のきむらゆきさん、平吹正名さんが来加しインタビューに応じた。
本年度の「ぴあフィルムフェスティバル」で観客賞と日本映画ペンクラブ賞を受賞した同作は、広島県三次市を舞台に中学生の少年がひと夏に体験する出会いと別れを描く内容。クジラの化石が出る町に広がる豊かな自然が美しくスクリーンを彩る。
三次市出身の友人を訪れた際、「ここで映画を撮りたいと思った」と言う藤川監督。撮影に先立ち2年間同市に住み込み構想を練った。少年3人組には俳優ではなく地元の子どもを採用し、主人公の家は監督が借りていた家を使い、滞在中に働いたコンニャク工場をシーンに盛り込むなど地元の協力を得ながら約1カ月かけて撮影した。
出演が決まった少年たちとは「演技の指導よりも食事を共にするなどして交流を深めていった」(藤川監督)という。途中、子ども同士がけんかしたこともあったが、「演技の経験がないのに良い表情が多く撮れたのは彼らが素晴らしかったから」と子どもたちをたたえる。
祭りのシーンは実際の町の行事を使用したため、出演者らは地元の人に交じって準備にも参加。進行する準備の様子をそのまま撮影した。きむらさんは「普通に町の人と話ながら準備を手伝っていたのだが、いつカメラが回っているか分からなかったので少し緊張した」と笑い、平吹さんは「町になじもうとしている役柄を意識しながら手伝う中、自然と出た動きだったので(作品の流れの中でも)不自然さがなかった」と、通常とは違った演技経験を振り返る。三次市での日々について、「地元の言葉を覚えて役に近づいていく新鮮な日々だった」(きむらさん)、「東京から来た役だったので、ある意味自分のまま町の人との対応も楽しめた」と感想を話した。
上映後には来場者から、「映像が美しく、その町に旅行に行ったように錯覚した」との感想も聞かれた同作。クジラの化石博物館、1000年以上前から伝わる舞、被爆体験を語る地元の老人などのエピソードも効果的に挟んだ。藤川監督は「魅力的な町とそこに体積する時間も感じていただければ」と作品に込めた思いを話す。