市内各所で開催中のバンクーバー国際映画祭で9月29日、石井裕也監督の「バンクーバーの朝日」が上映された。会場では上映に先立ち石井監督、主演の妻夫木聡さん、亀梨和也さん、プロデューサーの稲葉直人さんが出席して記者会見が行われた。
会見は、同映画祭出品5作目の石井監督が「バンクーバー映画祭は7年前にとても若い時に参加させてもらって以来参加しているが、個人的にもすごく親しみを感じていた。今回バンクーバーについての映画を作らせてもらい非常に縁を感じる」、プロデューサーの稲葉さんが「上映には日系の方も多くいらっしゃるのでどのような反応になるかドキドキしている。ぜひご意見をお伺いしたい」とそれぞれあいさつして始まった。
続いて出演者の2人がそれぞれのキャラクターについて簡単に解説。妻夫木さんは演じた役柄「レジー」に関して、特定の人物像は作らずに臨んだが「その時代に生きた『朝日』の誇りを胸に、自分たちが作り上げる『朝日』の舞台ではいつくばってでも生きていこうという思いで演じていた」と話した。亀梨さんは役柄「ロイ」を「影のあるキャラクターで心を開けずにいるが、野球を通して仲間として受け入れてもらいつつ自分もさまざまなことを受け入れるという役だった。自分も同様に野球と撮影を通じ皆に受け入れてもらったと感じた」と話した。
石井監督は自分が生まれる前の1930年代という時代背景について「(自分には)分からないからこそ面白いと思った。現代の観客にとっても何かメッセージを残せるストーリーだと思っているので、自分が知らない過去の時代のストーリーでも(製作には)問題はなかった」と自信を見せ、当時の日系人の歴史的な背景については「以前は知らなかったし、スタッフも知らなかっただろうと思うし、日本の多くの人も知らないと思う。ただ、映画を作るに当たって被害者面だけはしたくなく、どれだけ頑張っていたか、どれだけ強い思いを持っていたかを映画にしようと思って作った」とした。
作品中レジーが「野球ができるからカナダに生まれてよかった」と言うセリフが出てくるが、監督は「当時の人たちが実際に何を感じていたかは分からない中で可能な限りの調査を行い、朝日の選手たちはこういう思いだったんじゃないかという核心を突こうと想像した。その想像こそが映画を作るということだと思うのだが、最も核心を突けたセリフだっと思う」と満足気な笑顔を見せた。
野球のシーンも多い2人を含むチーム仲間は撮影がない時にも練習があったといい、「撮影前のランニングやキャッチボール、チーム練習など、撮影中は本当にチームとして存在させてもらっていた感がある」(亀梨さん)と感慨深げに振り返り、妻夫木さんは「野球は小学校の時に少し経験があるだけだったが、とにかく一生懸命練習してうまくなろうとした。一度ケガで練習できないことがあったが、その間『俺は野球がしたい』という思いが強くなり、野球と共に生きている自分を感じた瞬間もあった。野球と共に過ごした日々だった」と振り返った。
会場に集まった地元メディアからは終始活発な質問が続き、俳優という仕事を選んで良かったと思うところは、との質問には2人とも「多くの出会いがある」点を挙げたが、亀梨さんは反対に俳優になって悪かった点を「あるキャラクターで体の毛を全部そらなければいけなかった。そった時は良かったが生えてきた時がチクチク痛くて嫌だった」と笑いながら話した。
一行が当日カナダに到着したばかりの中、行われたにも関わらず、俳優陣、監督らとも終始リラックスした雰囲気で質問に答え、時にはお互い笑顔を交わし合う姿が見られるなど制作陣の結び付きの強さが感じられる会見だった。
映画祭ではチケットの完売が続いた同作品の追加上映を決定。10月9日の15時30分にも上映する。チケットの購入は映画祭サイト、または劇場窓口から。