イエローナイフ はノースウエスト準州の首都であり、世界でも1,2位のオーロラの出現率を誇る。約20年前から現在に至るまで年に平均約6千人の日本人が同地を訪れるなど、「オーロラ観測の地」として人々を引き付けて止まない。
同地には日本からオーロラツアーのためだけにダイレクトに観光客が訪れるが、カナダを熟知するバンクーバーの日系旅行社も年間を通して「バンクーバーから行くオーロラ鑑賞ツアー」を催行、観光客や留学生、カナダに住む日本人にとってはそれに乗っかるのは楽にして益多い。
イエローナイフは北極圏から約400キロ南に位置する。11月~3月までの平均最高気温はマイナス約17度という寒さだが、どのツアーを利用しても非常に高い防寒機能を備えた防寒具(ジャケット、手袋、ブーツ)が貸し出される。この防寒具さえあれば特別な装備は必要なく、外でのアクティビティーも楽しめるというわけだ。実はジャケットだけで7万円以上もするのだそうだけれど。
(防寒具)
オーロラは夜10時~翌3時ごろの間にダウンタウンから30分ほど離れた、湖のほとりから鑑賞することになる。湖といっても車が乗り入れられるぐらいそこは凍っており、ツアー会社の確保するキャビンでお茶を飲みながら、ほかのツアー客と会話に興じながら待機し、オーロラの出現を待つ。わくわく期待に胸を躍らせて。
20年以上にわたり、世界中のオーロラとその背景を撮り続けている星景写真家の高坂雄一さんも年に数回は同地を訪れる。今回のツアー期間にも撮影のために現地入り。これまで何千ものオーロラを見てきた高坂さんはその魅力について「千回見ても1回1回が違う点」と話す。高坂さんは、アメリカNPO機関、The World at Night(TWAN)のメンバーであり、オーロラだけでなく、自身の撮影した夜空(Dark Sky)の写真を通して、夜空を保存することへの重要性を訴える活動にも取り組んでいる。
高坂さんの活動を聞いた後での鑑賞ツアーは、たとえ、思い描いたとおりのオーロラの写真が撮れなかったとしても夜空を見上げられること、星を見つけられること、月の光に照らされることへの感謝の気持ちが改めて溢れ出る特別な時間となった。
世界で1,2位のオーロラ出現率を誇ると記したが、イエローナイフでは3泊すると95%の確率でオーロラを見ることができると言われている。長期間いても全く出合わさず、空振りに終わる地域や季節もある。この高い出現率については、専門的な見解があるが、ほかの市や国と比べ、晴天率が高いことも影響しているという。しかし、オーロラはあくまでも自然現象。100%見ることができるものならばここまで人々を魅了してはこなかっただろう。そして、一度見たオーロラも次回は形や色を変えて現れる。七変化どころか、生き物のように変幻自在なのだ。あらかじめ作られるストーリーも、再現されるパノラマもない。見られるか見られないか分からないけれど、その地へ行く。オーロラ鑑賞ツアーへの期待感はどの地に旅行へ行くよりもはるかに大きく、スリリングなものなのかもしれない。
やっぱり犬ぞり体験
「ナビツアー」の紹介するオーロラツアーを催行するのは地元イエローナイフで犬ぞり業を営むベックス・ケネル・オーロラツアーズだ。英語でのツアーとなるが、カナダに住む日本人や留学生からは「日本のかゆいぐらいのサービス」とは異なり、素朴でホスピタリティー溢れるフレンドリーなスタッフのガイドに「客ではなく、地元の人に招待されたようで忘れられない経験となった」と評判も高い。先住民の地を引くオーナーのグラント・ベックさんは5世代にわたる犬ぞり師。(英語でマッシャーMasherという)。世界中の犬ぞり選手権で何度も優勝する経験をもつほか、犬のブリードから犬ぞり師の養成にも積極的に取り組み、「オーロラ鑑賞だけでない、イエローナイフの魅力も観光客に知ってもらいたい」 と犬ぞり、市内観光、アイスフィッシングなどのツアーも提供している。
「犬が可哀相」という声もあるそうだが、ベックさんは「犬は走りたくてしょうがないんだ」と、きっぱり。なるほど、犬ぞりを体験してみると犬は簡単には止まらない。「走りたくてしょうがない」という言葉に説得力があり、納得させられる。操縦方法は、両足をそりの後ろから出ている木枠に乗せ、地面を片足で軽く蹴ってそりを押すと走り始め、両足の間のレバーに片足、または両足の体重を乗せると犬の動きは減速し、そりは止まるという仕組み。
犬はコースを覚えているため、ツアーでは右や左の方向に操るといった高度な技術はいらないが、実際の犬ぞりレースでは初めてのコースを犬たちは瞬時に覚え、マッシャーの叫ぶ声に反応してトレイルを走り抜ける。その能力はすばらしい。100匹以上のアラスカンハスキー犬を飼育し、訓練しているグラントさん。「生まれたときから犬たちとは信頼関係を構築している。どの犬にも個性があり、犬同士の相性も考えてチームを結成する」と犬たちを熟知する。
小さい子どもでも1頭の犬ぞり操縦から体験できる。ツアーでは「安全に、誰もが操縦ができ、皆に喜んでもらえるようなユニーク体験を提供したい」と話し、なによりも「このような極北の地でしか体験できないアクティビティーを通してこれまでに経験したことのない『達成感』を感じてほしい」と熱く語る。
湖の中に仕掛けた網には次から次へと同地方で取れるホワイトフィッシュ、リンコッドなどの魚がかかる。
捕れた魚はスタッフがさばいて、ランチに提供。バターと塩コショウのみのシンプルな味付けでも深い味わい。ロンドンの名門ホテル、あのサボイホテルでは客が自分でマスのバター焼きの塩味を按配して賞味すると聞いているが、大都会のホテルと田舎の町で同様の楽しみが味わえるのだ。寒い外から帰ってきた後に暖かい部屋でスタッフが次々とさばく魚にツアー客が感嘆の声を上げる。焼きあがった魚を食べるツアー客同士の会話も弾み、自然に笑顔がこぼれる--現地ならではの格別な時間だ。同湖で釣られた魚はフィッシュ&チップスやソテーとしても地元のレストランで提供されており、観光客や地元の人の人気メニューとなっている。
広大な湖の上でのスノーモービルの操縦体験もイエローナイフだからできるアクティビティー。トラフィックもなく、ぶつかる心配もない湖上でゆっくり操縦をマスターできる。
多様な先住民族で構成され、公用語も11言語を数えるという。カナダの他都市とは違う独特の雰囲気を持ち、先住民の文化を引き継ぐ街である。街中には今後の発展の兆しとみられるものと、昔ながらの先住民の文化が混在する。また、ここ20年の間にダイヤモンド鉱脈が発見されたため、カナダダイヤモンドの産地ともなっている。地元ですし店「SUSHI NORTH」を経営する鈴木誠二さんは、イエローナイフは「そこにしかないものを見たいという好奇心を満たしてくれる『北の玄関口』」と位置付け、「ここから更に奥深く『北』の魅力を知ってもらいたい」と人々をいざなう。
オーロラ鑑賞だけでなく、犬ぞり、アイスフィッシングなど先住民の文化を引き継ぐアクティビティーのほか、自然探検などもっともっと多くの体験ができる極北の魅力は尽きない。オーロラといえば、「一生に一度は見てみたい」と言われる代表の一つだが、一度訪れるとオーロラが見えなかったとしても、同地の魅力にとりこになるリピーターも多いという。未知の世界を発見する喜びは「新鮮な達成感」に昇華し、更に冒険心をくすぐる。そしてまた、新たに好奇心の芽を刺激するのだろう。
「オーロラだけでなく、犬ぞり、アイスフィッシングなどイエローナイフならではのアクティビティーをツアーに盛り込んで旅を更に割安で『満喫』していただけます。英語ツアーだから経験できる地元の方との触れ合いも同ツアーの魅力の一つです。」(ナビツアーの吉村一也マネジャー)
取材協力:NaviTOUR