故・樹木希林さんの遺作となったドイツ映画「命みじかし、恋せよ乙女(原題Cherry Blossoms and Demons)」(ドーリス・デリエ監督)が10月6日、「バンクーバー国際映画祭」で上映された。
ドイツ映画「命みじかし、恋せよ乙女(原題Cherry Blossoms and Demons)の一場面
デリエ監督が「これは家族の物語」という同作品には亡くなった人の「幽霊」が登場する。デリエ監督は「『雨月物語』など日本の怪談や文化に登場する『幽霊』という概念を使ってドイツ人の家族の物語を描いてみようと思った。ドイツ人はキリスト教の影響から亡くなった人の『幽霊』という概念を持ない人が多い。しかし(ドイツ人にとっての)家族の思い出と日本人が考えている家族の『霊』というものが同じなのでは、と思い作品で扱おうと考えた」と話す。「そのせいか映画を見た時に(ドイツ人より)日本人の方が、どの登場人物が生きていて誰が死んでいるのか理解するのが早かったようだ」と笑う。
日本を題材にした作品をこれまで5作品制作しているデリエ監督は「日本とドイツはファシズムと敗戦を経験した点や社会状況など似ている点が多くある」とその理由を話す。「この作品には第2次大戦時の幽霊も登場するが、両国とも過去を振り返り学ぶ必要がまだまだあると思っている」とも。
見る人には「家族というのは複雑なものだし、自分のアイデンティティを見つけ生きる意味を見つけるのも難しいことだが、精いっぱい生きて楽しむことの意味を感じてもらえれば」と期待する。劇中で「ゴンドラの唄」を歌うシーンが女優として最後の撮影となった樹木さんについては「樹木さんはご自分で死期が近いことは分かっていらっしゃったけれど、現場ではとても楽しく、周囲の人々に優しい方だった」と懐かしみ、「作品に参加していただけて本当に感謝しているし光栄に思っている」と話した。
上映後は「樹木希林さんが最後にこの役を引き受けた理由が分かった気がした」「若者たちに『生きなさい、生きるなら幸せにならなきゃね』と伝え続けていた彼女にしかできない役だったと思う」などの感想を話す人の姿が見られた。