10月8日に閉幕したバンクーバー国際映画祭(VIFF)で日本映画「バカ塗りの娘(英語題Tsugaru Lacquer Girl)」が上映され、鶴岡慧子監督が来加し質疑応答を行った。
高森美由紀さんの小説「ジャパン・ディグニティ」を原作とする同作品。青森の伝統漆器である津軽塗の職人親子を中心に、伝統工芸の美しさ、続けることの難しさと尊さ、そして後継者問題や同性婚などの家族のあり方を描いた同作品。弘前の風景や郷土料理が、静かな時間の流れを映した映像に彩りを添える。鶴岡監督は「撮影した弘前の方たちには温かく迎えてもらい、気持ち良く協力していただいた」と感謝を表す。
タイトルの「バカ塗り」については「津軽塗を指す言葉として津軽では広く知られており、完成までにバカに手間暇かけて塗っては研いでを繰り返し、そして完成した物はバカに丈夫であるという意味を持つ。映画のタイトルを考えた時、津軽の職人さんたちへのリスペクトを表す気持ちから使いたいと思った」と説明する。
作品では、父と娘が黙々と工房で作業する様子を静かにじっくりと追い、漆が丁寧に塗り重ねられ漆器が完成するまでの工程を映す。鶴岡監督は「手作業だけを映すシーンが長めではあるのだが、津軽塗の時間の使い方を表現するにはまだ短い気がしたくらいだった」と振り返る。「長くし過ぎて観客の方が飽きないようにと考えながら津軽塗の我慢も見せたかったので編集には力を入れた」とも。
主人公の祖父が漆の果てない魅力について「やればやるほど面白い」と語り、作り続けることへの情熱を話すシーンがある。「あのせりふは地元で職人の方を取材した際におっしゃっていた言葉を脚本に使わせてもらった」と明かす。「津軽塗に懸ける純粋さが素晴らしいと感動したし、一番の才能は続けることだという説得力もあった。自分にとっては映画に置き換えて実感できるところもあり本当に心に響いた言葉だった」と思い入れも話す。
10年前に大学院の課題で制作した作品「はつ恋」以来の参加となったバンクーバー国際映画祭。「まだ続けている」と笑い、「海外での上映をスタッフ一同すごく喜んでいる。作品を楽しんでもらいたいのはもちろんだが、日本人でも見る機会が少ない伝統工芸を作る工程を海外の方が見て津軽塗に興味を持ってもらえたらうれしい」と話す。「この作品は今まで自分が試行錯誤してきたものが出せた映画だと思う。普段は映画に関わっていない方たちとも一緒に作り上げ、自分にとって大きな収穫を見いだせた作品」と笑顔を見せる。